人工の砂浜で鳥が来るのをずっと待って

夜が明けていく、首都高の、薄いグレーの空の、ビルたちが並んで、大きな橋が伸びて、滑空する鳥を見ながら、わたしは飛ぶということについて考える、鳥 たちは翼を広げ、水平になって空気のなかを抜けてゆく、あれはなに? 飛びながら鳥の目から空は消え、わたしたちから時間は消え、きらきら光るものだけ が飛び散って、

あのとき、わたしたちは手をあげて、遠い場所に石を投げて、空にも傷口があるのかもしれない、って言った、あんなに完璧に見える空でも、そうしてわたし たちは飛んで、すべてを爆撃できるだろうか、って思った、あれはどこ? もうどこにもない、はじめからないかもしれない、あの時間と、わたしたちのビ ル、わたしたちの砂浜、わたしたちの翼、夏の日に並木を歩いて、あれは祈りだと思っていたけどちがうかもしれない、あれは単なる鳥だったのかもしれな い、

記憶のビルディングを建て、わたしたちは果てしなくそれをのぼる、地上は読み捨てられた新聞のようだ、9.11という数字がこぼれて、そこからどんどん 変な記号が噴き出す、それはなに? なんなのかわからないままただ降り積もって、見つかったブラックホールの体積は太陽の16倍とかいうことで、わたし たちはその空白を埋めるために日々キーを打ち、文字のようなものが並んでいく、いつか生命が生まれるかも、って思って、わたしたちの思い出を移植してい る、それは叫びだと思っていたけどちがうのかもしれない、それは単なる祈りだったのかもしれない、

ある朝起きたらウェストがぽよーんとなってて、なにかしら?これはなにかに似てる、そうこれはアザラシ?と思って近くの川に出たら「たまちゃん」って名 前をつけられちゃったんです、そしたらなんだか人気が出ちゃって、アイドル目指してマイクロダイエット飲んだり発声練習したりそういうのがうまくいかな くてリストカットしたりしてたのがなんだかバカみたいに思えてきて、そっかー最初から動物になればよかったんだなー、ってなんかはじめて自分を解放でき た、って感じで、今ですか? そうですね、こうして自然体でいるっていいですよ、今までのわたしは全部嘘だったんだ、これがリアルで等身大のわたしなん だな、って、くびれがないってなんか癒されるじゃないですか、

モノリス、そう、ここはもう平面ですらなくて、てゆーかもう場所ですらなくて、空ってなんですか? 世界の果てってここですか? どうしてもフラグが立 たないんですけど、永遠ってなんのことですか? なにもかもが01に置き換え可能で、だからそれはぼくたちにとってリアルに意味がないんで、繰り返され る日常とか、てゆーかそれらはもうすでにとーぜん等価なんで、もう牛丼も食えなくて、年金とか言われても正直よくわかんないし、夜の校庭で椅子を世界の 形に並べてみたりとか小手先だけがんばってみましたみたいなのはなんかもう絶対的にちがうし、ほんと出口なし、出口なし、出口なし、でも六本木ヒルズに 火つけるほど体力ないし、電車に毒ガス巻いたりATMに飲むヨーグルト流し込んだりするわけにもいかないんで、

(バッテリーの充電が終了しました)

吸い込まれていく、となりを滑空する鳥を見ながら、わたしは飛ぶということを考える、広がる奇妙な形のビルを眺めて、いつか高層ビルの上で見た東京の模 型のことを考える、写真に置き換えられた日々のことを考える、人工の砂浜のことを考える、あそこにもふつーに波は来て、心臓もデータも、同じようにビル のあいだを漂い、ゆりかもめのように橋を渡り、何度も破裂する音がして、何度もビルが倒れて、飛行機が飛び立ち、橋を渡り、海が開いて、浮かび上がる記 念碑、なつかしいと思う人がいなかったらあの青は存在できないんだよ、って……なんだよ、それ?

何度も飛び、はばたき、水平になる、ビルとアスファルトと高速道路のなかで、重さを失い、顔を失い、あの川を流れるクラゲ状の物質のように、日々どこか に渋滞しているデータが、ゆらゆらとかたまり、人型になる、そいつらをなんて呼べばいいんだろう、瞬間ごとに送られる電波のなかで、いつのまにかわたし たちもそういう人型のものになってるのかもしれないのに、

なにもない星に降り積もる雪のように、わたしたちの目は落っこちて、風にさらされ、橋を渡り、海を渡り、入力して、数を数えて、繰り返し、飛ぶというこ とについて、と表示される、広い人工の砂浜で鳥が来るのをずっと待って、

「ねえ、あれ、あれは……なに?」


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