空には形がない


空には形がない。あれは月。あれは雲。あれは鳥。空には形がない。祭りがおとずれ、去っていく。くりかえしめぐる、洗濯物がはためき、犬が歩き、人が歩き、車が走って、みんな死ぬ。どこにもつながらないきよらかな墓になりたい。毎週ピアノを練習しました。どこに月、どこに雲、どこに鳥。空には形がない。ループしている。洗濯物がはためき、子どもが歩き、母親が歩き、バイクが走って、みんな死ぬ。どこにも着かない安全な手紙になりたい。足踏みと、リズムと、鼓動と。歌声のような月でした。あれは耳、あれは指、あれは肩。空には形がない。テレビもラジオも砂に埋めました。柵を超え、線路を超え、国境を超え、どこまでも開いたなつかしい夕日になりたい。どこに墓、どこに家、どこに国。空には形がない。届かない、たどり着かない、行き場がない。耳が切れてしまいました。洗濯物がはためき、子どもが泣き、犬が鳴き、街が叫ぶ。だれにも見られないただひとつの夢になりたい。積み上がった文字、コンテナを見るのは疲れます。白く透けた横顔でした。どれが街灯、どれが暗号、どれが心臓。空には形がない。掲示板が光り、神と会話をしていました。僕が死んで、わたしが死んで、あなたが死んで、街が萌える。どこにもとまらない真っ白い鳥になりたい。翼と、瞳と、くるぶしと。これが声、これが身体、これが影。空には形がない。壊れたビルの向こうに洗濯物が揺れていました。人が笑い、子どもが笑い、道が滑る。雪はもうひとつのわたしたちでしょうか。プラス、マイナス、プラタナス。声には乳臭い匂いがしました。それは母、それは記念碑、それは数。決して結晶しないなめらかな国になりたい。空には形がない。旗はみんな捨てるのです。足踏みと、指と、翼と。あれは鏡、あれは湖、あれは靴墨。子どもが歩いて、わたしが死んで、僕が暮れて。どこまでも続く日記のような旅になりたい。その人はいつも長靴をはいていました。木でもなく、紙でもなく、石でもない。チューブが揺れて、地図には幽霊が宿っていました。決して剥がれない奇数の番地になりたい。曇っている、留守番電話、目覚まし時計、コインランドリー。これが雪、これが文字、これが心臓。中途半端な存在でした。空には形がない。二度と行けない公園の自販機になりたい。人型のものがどうしても見つからない。蜂蜜という文字を書いた。筋のようなものが雲だった。もう少しでバスが来ます。あなたが行って、わたしが行って、子どもが寝ている。もう練炭がないかもしれません。空と、血液と、雑居ビル。鍵カッコのように人工的な日記になりたい。空には形がない。おじいさんはいつも犬といっしょでした。見下ろして、呼吸している。鳥はもうひとつの祭りでしょうか。洗濯物は空の鼓動でしょうか。肉屋で袋をもらう夢をみました。これは耳、これは顔、これはため息。祭りが始まって、竹竿の先に揺れています。空には形がない。コモドオオトカゲという動物がいました。だれとも交換できないきっかけのようなさびしさになりたい。太鼓が飛んで、時計が沈んで、独楽が増えて。世界のなかでわたしだけがわたしであることを知りました。ボタンと、雑誌と、心臓と。涙という言葉が怖いですか。地平線を見るわたしがいました。空には形がない。約束はできない。どこに月、どこに雪、どこに耳。青いプールでいつまでも息を吐き続けたい。空には形がない。あれが雫、あれが木漏れ日、あれが中央分離帯。光っています、ひとりぼっちの瞳が、団地が、ディスプレイが。あなたの孤独を肯定します。もうバスに乗れましたか。知ってる人はいましたか。なにもかもあまりにも綺麗で、切れ切れでした。足踏みと、都市と、指と、旗と、バスと、人と、影と、街灯と、掲示板と、墓と、コインランドリーと、神と、鼓動と、日記と、雑居ビルと、わたしと、僕と、あなたと、鳥と、プールと、洗濯物と、血液と、空と。空には形がない。空には形がない。空には形がない。


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