遠くに世界が開けていました

遠く、白く、明けていく。坂をのぼって、給水塔が見えてきました。なつかしいのは空の色。だれもが死んでしまうのに、今日もだれかに出会いました。遠く、白く、開いていく。世界は空だと思っていました。からからという音がして、ただ順番を待っていました。豆のようなものは死にました。川辺、笹の葉、虫の羽。わたしが廊下に立っていました。はい、出席しています。教科書を広げてください。プールの匂いがしていました。ゴムの痕が残っていました。遠く、白く、伸びていく。世界は水だと思っていました。あそこまで行ってみようとだれかが言った。鉄棒、ゴム段、銀杏の木。ごめんなさい、透けていて。世界は道だと思っていました。じゃがいもばかり食べていました。風鈴、自転車、蟻の列。麦わら帽子が揺れていました。生きてるってなんのこと? 遠く、白く、割れていく。世界は川だと思っていました。あの雲も山も、まだ生まれない人の夢でした。スポイト、チューブ、注射針。青い筋が浮いていました。寝ている人と会話しました。食べたいの? 脈打ってるよ、しわしわで。手をにぎってくださいね。窓から鳥を見ていました。なつかしいのは海の色。階段、プール、診察券。もう舟に乗っている。やさしい声で泣いていました。世界は声だと思っていました。まるいまるい天井の光。遠く、白く、浮いていく。お久しぶりです、だれでしたっけ。また駅が過ぎていった。流れるように、忘れたことが揺れていました。だれかが空を見上げていました。世界は夢だと思っていました。なにもかも、青くて青くて裂けていました。しずく、こまどり、きんせんか。自動改札の夢を見ました。増えたり減ったり、葉のようでした。遠く、白く、増えていく。帰るってなんのこと? 遠い椅子に座っていました。どこから来たのか、どこまで行くのか、だれも知らずに眠っていました。タイヤの看板が立っていました。おばあちゃん、そこはどう? 引き出しはもうありません。帰れないと知っていました。燃えるような風景が。日射しのような行列が。もう会えないの、永遠に。遠く、白く、あふれていく。あれはゆるぎない列車でしょうか。川はまだ流れています。月日が揺れる列車のよう。芝生、ブランコ、郵便受け。そうしていつも待っていました。この先に行く舟はありますか。みんな木の葉に透けていますか。世界は鳥だと思っていました。テレビのなかで爆発しました。網戸の蛹が羽化しました。空がゆらゆら揺れていました。根っこのようにのびていました。夕暮れどきに泣いていました。激しく虹が立っていました。命が鳥になっていくこと。生きて雫になっていくこと。遠く、白く、泡立っていく。みんな細い紐のよう。増えたり減ったり、葉のようでした。なつかしいのは海の色。汐の音が響いていました。やわらかいものが泣いていました。なつかしいのは空の色。さあ、おいで。あの光を見てごらん。坂をのぼって、遠くに世界が開けていました。遠くに世界が開けていました。




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