空がむせたようにくもっていた。濁った水の流れる川。どこまでも奥に咲いてゆく桜。もう車両がないモノレールの線路。横断歩道を白い袋をさげた人たちが渡り、アナウンスが響いている。
ばら苑、プール、菊花展、スケート、さらに、キッズに大人気のブースカランドやヒーローショーなど、365日楽しさでいっぱいだった向ヶ丘遊園。これまでの感謝の気持ちをこめて、最後はドーンと盛りあがります。見逃せないイベントやおトクも満載! 是非遊びに来てください! *
歩いている。眠るように。わたしたちはいつもこの場所を、自分の夢のように見つめているのではないか。自分の夢のように歩き、からみつかれているのではないか。ブースカランド、フラワートレイン、アドベンチャーコースター。ひらひらと飛び回るちょうちょ。はしってゆく子どもたち。「よく来たのよ、あなたたちがまだ小さかったころ」。だれかがだれかに話しかける。「迷子になったんだ。幼稚園の遠足でここに来て、ひとりであのエスカレーターに乗った」。
光っている。夏の青い空。プールの水しぶき。太鼓の音がひびいている。遠くにあがる花火と盆踊りのやぐら。踊りながら回っている。ワイルドグース、フローラルダンス、バルーンファンタジア。ビデオが回る。記念写真を撮る家族。まわっている。人も時間も記憶も。メリーフラワー、フライングステージ、スーパーローラーコースター・ディオス。空は果てのない野原のよう。だれの夢だろう、あれはだれの夢だったんだろう。ゴーカートが走っている。スワンボートが浮いている。大観覧車が回っている。駐車場が燃えている。どこにいるのだろう、わたしたちは。
外周を回っている。柵に囲われた遊園地の敷地の。ブルドーザーのパワーショベルが落ちている。錆び切って、道の隅に。「さびしくなりましたね、音が聞こえないから」。雨上がりの蜘蛛の巣、苔の尖の露。鳥のようなものがあちこちの葉の蔭にいて、わたしたちはふるえている。古い庭に洗濯物がはためいている。波打っている、どこかで、わたしたちの心が。あそこにもここにもうるおった音が響いているのに、空はどこまでも透明なままだ。
わたしたちが透けている。だれもかれも遠く、はしっている。あれはいつだったのだろう。走り、笑い、回った、あの場所。いつまでも花は咲いていて、いつまでもボートは浮いていて。世界は透き通った瞳のようだ。まだだれも映していない瞳。終わりはこない。なにひとつ、完成していない。わたしはあそこに行きたい。水はいつも一面にぴんと張り、その底に長い、草のようなものが揺れている。
*「向ヶ丘遊園グッバイ6デイズスペシャル」チラシより引用
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